ネットワーク基礎②

LANとWAN

ネットワークの接続方法は大きく分けてLANとWANに分かれている。LANは企業の1つの事務所や施設、自宅などで動作する小さなネットワークである。それに対しWANは事務所や施設間や都市間、国際間など広範囲に接続するネットワークである。LANはユーザーが自前で構築するのに対し、WANは電気通信事業者(通信キャリア)が管理する必要がある。インターネットはWANの一種である。

イーサネットLAN

LANでネットワークを構築する際に用いられる代表的な技術がイーサネットである。もともとはIntel、Xerox、DECによって開発されたが、1980年代にIEEE 802.3として標準化された。

イーサネットはTCP/IPモデルのネットワークインタフェース層、OSI参照モデルの物理層・データリンク層で動作し、物理的な接続方法やMACアドレスによる伝送方法などを規定している。

イーサネットの伝送方式

イーサネットでは伝送方式としてCSMA/CD方式を採用している。

Carrir Sense
誰も使っていなければ使用可能
Multiple Access
全員に向けてデータを送る
Collision Detection
衝突が検出されたら再送する(ランダム時間待つ)

LANケーブル

LAN内で機器間を接続するためのケーブルには以下のものを使用する。

同軸ケーブル
銅線を絶縁体で囲んだケーブル。
ツイストペアケーブル
銅線を2本ずつペアにしてより合わせたケーブル。LAN接続で一般的に使われているケーブルで、LANケーブルと呼ばれるものは通常ツイストペアケーブルのことである。
光ファイバーケーブル
石英で作られたコアという芯をクラッドが覆う構造で、コア内を光信号が反射することで伝送するケーブル。

イーサネットの規格

イーサネットには複数の規格が存在する。、主に次のようなものが存在する。

同軸ケーブル

規格 伝送速度 伝送距離
10BASE-2 10Mbps 185m
10BASE-5 10Mbps 500m

ツイストペアケーブル

ツイストペアケーブルの規格にはカテゴリが存在し、カテゴリの数字が大きくなると性能が上がる。また、100BASE-TXをファストイーサネット、1000BASE-T/TXをギガビットイーサネットと呼ぶ。

規格 伝送速度 カテゴリ 伝送距離 名称
10BASE-T 10Mbps カテゴリ3 100m
100BASE-TX 100Bbps カテゴリ5 100m ファストイーサネット
1000BASE-T 1Gbps カテゴリ5e 100m ギガビットイーサネット
1000BASE-TX 1Gbps カテゴリ6 100m ギガビットイーサネット
10GBASE-T 10Gbps カテゴリ6A 100m

光ファイバー

規格 伝送速度 伝送距離 名称
1000BASE-SX/LX 1Gbps 550m/5km ギガビットイーサネット
10GBASE-SR/LR 10Gbps 300m/10km

MACアドレス

イーサネットにおいて通信する際に、ネットワーク内の機器を識別するための値。物理アドレスとも呼ばれ、製造時に付与される固有で変更不可能なアドレスである。全体で48ビットあり、24ビットずつ2つに分割される

OUI(ベンダコード)
前半24ビット。IEEEが管理しているベンダー識別用のID
ベンダ管理番号
後半24ビット。ベンダー内で重複しないように割り当てる番号。

イーサネットフレーム

イーサネットで扱うデータをイーサネットフレームと呼ぶ。イーサネットフレームにはIEEE802.3形式と、EthernetⅡ形式(DIX)の2通りあり、現在ではEthernetⅡ形式が広く普及している。イーサネットフレームには上位層までのデータであるパケットとイーサネットヘッダが含まれている。イーサネットヘッダには宛先と送信元のMACアドレスが格納されている。

LAN間接続装置

LANによるネットワークを構築する際に用いられる装置はOSI参照モデルの階層ごとに複数の種類があり使い分ける。

リピータ

物理層(L1)で機能する装置。ケーブルに流れる電気信号を増幅・整形を行う機能がある。例えばイーサネット規格10BASE-Tでは伝送距離が100mという制限があるが、これ以上の長さを伝送させるためにはリピータの機能を使用する必要がある。

ブリッジ

データリンク層(L2)で機能する装置。リピータが持つ電気信号の増幅・整形といった機能に加え、イーサネットヘッダの宛先MACアドレスを見て、適切なポートにデータを送信するフィルタリング機能を持っている。ブリッジで分割された領域のことをコリジョンドメインまたはセグメントと呼ぶ。コリジョンとはCSMA/CD方式でも出てくる「衝突」のことで、この衝突を検知する範囲がコリジョンドメインである。イーサネットがデータリンク層までのプロトコルで、ブリッジがデータリンク層の装置であることを覚えていればわかりやすい。

ルータ

ネットワーク層(L3)で機能する装置。IPヘッダの宛先IPアドレスの情報を見て、適切なネットワークにデータを転送する。ルータが持つこの機能をルーティングと呼ぶ。ルータで分割された領域のことをブロードキャストドメインまたはネットワークという。

ルータとほぼ同じ機能を持ちながら処理性能が向上している機器にL3スイッチがある。

ゲートウェイ

トランスポート層(L4)以上で機能する装置。L4以上の情報に基づいてルーティングを行うことができる。

ハブ

イーサネットにおいて複数のネットワークをつなぐ集線機器のことを一般的にハブと呼ぶ。扱うレイヤごとに大きく次の2種類がある。

リピータハブ
物理層(L1)で動作するリピータをハブにしたもの。単にリピータというと電気信号を増幅する装置であるが、リピータハブは複数のケーブルを繋ぐことができる装置を指す。リピータにはフィルタリング機能がないため、データをコピーしてすべてのケーブルに伝送することになり使い勝手が悪いため現在ではほとんど使用されていない。
スイッチングハブ
データリンク層(L2)で動作する機器で、ブリッジと同じくフィルタリング機能を持っている。ブリッジと同じ機能を持ちながら処理性能が向上した機器がスイッチであり、スイッチはほとんどが集線機能を持つことからスイッチングハブと呼ばれる。スイッチングハブは通常多くのポート(ケーブルの接続口)を持ち、一般的に使われるものは8ポートほどであるが、多いものでは数百ポートある製品もある。スイッチングハブといえば通常はデータリンク層(L2)で動作する機器を指すが、ネットワーク層(L3)で動作するL3スイッチが存在するため、L2スイッチと呼ぶこともある。

無線LAN

無線LANは電波を使用して通信を行う仕組みである。電波を使用した通信の仕組みは1970年代のハワイに既に存在しており、その仕組みを基にIEEE 802.11で標準化された。

無線LANの伝送方式

無線LANでは伝送方式としてCSMA/CD方式を採用している。

Carrir Sense
誰も使っていなければ使用可能。
Multiple Access
全員に向けてデータを送る。
Collision Avoidance
衝突を回避するために、送信前に毎回待ち時間を挿入する。(無線なので衝突は検知できない)

無線LANの動作モードには次の2種類がある。

アドホックモード
端末同士が直接通信を行う形式。
インフラストラクチャモード
アクセスポイントを経由して通信を行う形式。通常のWi-Fiとしてイメージするのはこちらのモードである。

アクセスポイント

無線LANの電波を送受信する機器で、PCやスマホなどの端末(ノード)を無線LANに接続し、ルータを介して有線LANへと受け渡す役割を持つ。アクセスポイントはルータと一体型になっている場合が多く、無線LANルータなどの名称で呼ばれることも多い。また、光回線やADSLなどで外部からやってきた通信を電気信号に変えるモデム(ONU)という機器も必要で、通常は無線LANルータとモデムのセットで使用される。

ビーコン信号

アクセスポイントはビーコン信号を送信している。接続するノードはビーコン信号を認識し、その中にあるSSIDでアクセスポイントを識別して通信を開始する。

ステルスモード
ビーコン信号を発信しないモード。ビーコン信号を常に発信したくないときに用いる。
ANYモード
誰からの接続も受け入れるモード。無条件に接続を受け入れてしまうため、セキュリティ的に良くない。

SSID

SSIDはアクセスポイントを識別するためのIDである。ESSIDはSSIDを拡張したもので厳密には異なるものであるが、ほぼ同じ意味で用いられている。同じSSIDを複数の機器で設定することにより、場所を移動しても無線LANを使い続けることができる機能をローミング機能という。

隠れ端末問題

機器同士が遠く離れていたり、アクセスポイントを挟んで反対側に存在するなどの原因で互いに機器の存在を検知できない場合、CSMA/CA方式による衝突回避の機能が動作せず、データが頻繁に衝突して性能が落ちる問題。

回避方法として、RTS/CTS方式がある。この方式では、ノードがデータ通信を開始する前に送信するRTSとアクセスポイントが送信するCTSという制御フレームによって送信を制御する。これにより隠れ端末問題への対応はできるが、通信効率は低下する。

無線LANの規格

規格名 速度 周波数帯 特徴
IEEE 802.11a 54Mbps 5GHz 早くから普及した規格。
IEEE 802.11b 11Mbps 2.4GHz 障害物に強い規格。
IEEE 802.11g 54Mbps 2.4GHz 11bの上位互換。
IEEE 802.11n 600Mbps 2.4GHz/5GHz 11a,11b,11gの上位互換で、高速化が図られている。(MIMO、チャネルボンディング)
IEEE 802.11ac 1.3Gbps 5GHz 11nの上位互換で、さらなる高速化が図られている。

周波数帯の特徴

2.4GHz
障害物に強い。ただし、家電やBluetoothでも使っているので干渉されることがある。
5GHz
障害物に弱いが、無線LANでしか使わない周波数帯なので安定している。

無線LANの暗号化

無線LANは傍受が容易なため暗号化は必須である。現在使われている主な暗号化の方式には次の4通りがある。

WEP
無線LANにおけるもっとも基本的な暗号化プロトコル。暗号化方式はWEPで、暗号化アルゴリズムにはRC4が用いられる。暗号化鍵は40ビット又は104ビットの鍵長のWEPキーと、24ビットのランダム値(IV)からなる。脆弱性があり現在は非推奨。
WPA
WEPの脆弱性への対応のためにWi-Fi Allianceがセキュリティ規格を定めて実装を行ったプロトコル。暗号化方式がTKIP、IVが48ビットとなり、セキュリティは向上しているが十分とは言えない。
WPA2
WPAを改良して作られ、現在最も普及している暗号化プロトコル。暗号化方式はCCMP、暗号化プロトコルにはAESが使用されている。
WPA3
WPA2をさらに安全性を高めた最新規格。

パーソナルモードとエンタープライズモード

WPA、WPA2では二つのモードがあり使い分けることができる。

パーソナルモード
事前鍵共有方式で、クライアントとアクセスポイントに共通のパスフレーズを設定することにより認証を行う。この認証方式をPSK認証という。家庭での使用を想定している。
エンタープライズモード
IEEE802.1X規格を使用して認証をする方式。企業のような大規模環境での使用を想定している。

IEEE 802.1X

LANにおけるユーザ認証の規格。有線LAN、無線LANどちらでも使用が可能であるが、無線LANで広く普及している。

IEEE802.1Xにおいて、機器は3つの要素からなる。

サプリカント
PCなどのクライアントを指す。
認証サーバ
ユーザ認証を行うサーバのこと。ここにはRADIUSサーバを置く。
オーセンティケータ(認証装置)
サプリカントと認証サーバを中継する機器。LANスイッチや無線LANアクセスポイントを置く。

IEEE802.1Xでは認証プロトコルとしてEAPを使用する。EAPは、サプリカントとオーセンティケータの間でEAPOLというプロトコルを使用してやり取りを行い、認証プロトコルに受け渡す。認証プロトコルには様々な方式があり、主なものは以下である。

EAP-MD5
クライアント認証にユーザ名とパスワードを使用する。パスワードはハッシュ関数のMD5を使用する。サーバ認証は行わない。
EAP-TLS
ディジタル証明書(サーバ証明書とクライアント証明書)を利用して認証を行う。
EAP-TTLS
EAP-TLSを拡張した方式。サーバ認証にはサーバ証明書を利用するが、クライアント認証にはユーザ名とパスワードを使用する。
EAP-PEAP
EAP-TTLSと同じような認証方式。Microsoftが開発し、Windows標準でOSに内蔵されているため、簡単に利用できる。

WAN

WANには大きく分けて専用回線と交換回線の二種類がある。

専用回線

回線を単独利用する専用のネットワーク。高いセキュリティや安定性を確保したいときに使用するが非常に高価である。

交換回線

回線を複数で共有する方式で、大きく2種類がある。

回線交換

回線の切り替えを行い、1対1での通信を実現する方式。

公衆電話網(アナログ電話回線)
回線交換の初期の代表的な方式で、アナログ電話回線を使用する。
ISDN
電話、インターネット、FAXなどで使用されるデータをデジタル化して送受信するために構築された通信網で、総合デジタル通信網と呼ばれる。1990年代後半に普及したが、その後ADSLの普及によって現在ではほとんど役目を終えている。

蓄積交換(パケット交換)

データを短いデータであるパケットに変換して通信経路に流し、複数人で回線を共有する。蓄積交換のための回線は電気通信事業者が全国に張り巡らされており、アクセスポイントにLANを接続することによって利用する。そのための回線をアクセス回線という。

フレームリレー
初期のパケット交換サービスを簡素化・高速化したサービスで、1990年代から2000年代にかけて使用されていたが、現在ではサービスを終了している。
ATM(非同期転送モード)
パケットを53バイトの固定長のセルに分割して通信する仕組み。次世代の技術として期待された技術であったが、あまり普及していない。
ADSL
電話回線を使用した方式で2000年代に普及したが、光回線が普及したため役目をほとんど終えている。
IP-VPN
通信事業者が構築する広域IP網を使用してVPNを構築する技術。通信網としてインターネットを使用するインターネットVPNとともに、現在主流となっている技術の一つである。
広域イーサネット
通信事業者が構築する通信網を利用してL2によるVPNを構築する技術。